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6.出張旅費・日当についての課税関係は?

(1)熱血営業マン・A君の場合
 A君が勤務する会社は小規模ながら全国に販売網をもつ食品メーカーです。スーパーの惣菜コーナーに並ぶ地味な商品ではありますが、最近のグルメ志向や、他社との価格競争、納入先であるスーパーの厳しい仕入条件など安穏としてはおれない状況です。熱血営業マン・A君もそんな中、会社の生き残りをかけて全国の得意先廻りに忙しい毎日です。
 先日も、下関のあるスーパーに出張を命じられましたが、その時の社長の話です。
 「ご苦労だが、よろしく頼むよ。今回は、出張費を君だけ特別に、いつもより多めに出してあげるから、美味しいフグでも喰ってこいよ。」

(2)いい加減な出張旅費・日当の支給
 従来からA君の会社には、出張旅費や日当に関する規程のようなものは備わっておりません。その都度、社長の気分で、だいたいの所の金額を決められ、時には先程のA君のように臨時収入にあずかれることもあるようで、A君も内心、出張は嫌いではありませんでした。
 ところが、先日、会社に税務署の調査がはいり、調査官から驚くべきことを指摘されたのです。
「従業員の皆さんに支給された出張旅費は、通常の給料と同様、所得税の課税対象となります。過去五年分について、源泉徴収されますのであしからず。」
 税金がかからない臨時収入と考えていた従業員にはショッキングな話でした。

(3)出張旅費の支給はルールが大切
 所得税法では、サラリーマンが勤務先より受ける金品の内、旅費と言われるものに関して、次の要件を満たすものについては課税しないことになっています。

(A)その旅行の性質
 (イ)勤務する場所を離れてその職務を遂行するために行う旅行
 (ロ)転任に伴う転居のための旅行
 (ハ)就職や退職した人の転居叉は死亡により退職した人の遺族が転居のために行う旅行

 このように、まず旅行の性質が限定されているわけですが、A君の出張旅費は右の内(イ)に該当しそうです。ところがさらにその支給金額等に関しても制限があります。

(B)通常必要と認められるもの
 即ち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等らからみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品でなければなりません。
 税務調査で指摘を受けたA君の会社の場合、この点はどうだったのでしょうか?

(C)判断基準
 通常必要と認められるものか否かの判断基準としては、次の事項に留意すべき事とされています。

(イ)その支給額が、役員及び使用人のすべてを通じてバランスが保たれている基準によって計算されたものであるか?
(ロ)その支給額が、同業種、同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当なものか?

 右の(イ)でいう「基準」とは例えば「旅費規程」のようなものを意味しますが、A君の会社では前述のとおり規程を備えていませんし、金額の決定も、その都度社長の胸算用、気分次第で人によりバラバラでした。
 さらに、(ロ)でいう同業他社との比較でも、かなり大盤振舞していた節がありそうなのです。
 以上のような経緯から、残念ながらA君たちの出張旅費や日当は所得税法で非課税とされる旅費には該当せず、よって税金を追徴される憂き目に遭うことになったのです。

(4)役員ならダブルパンチだ!
 先ほどの税務調査官の指摘にはさらに続きがあります。
「それから、社長と常務に支給した分に関しては、役員賞与とみなされますので、会社の損金にはなりません。修正申告をしてください。」
 法人税法の規定では、役員に対する給与の内、臨時的に支給されるもの(役員賞与)については損金として認められません。
 したがって、A君の会社の場合、従業員の出張旅費は損金とされたのですが、役員の出張旅費は一方で個人の所得税は課せられ、他方会社の損金にならないというダブルパンチに見舞われたのです。

(5)消費税のトリプルパンチが!
 税務調査官の辛らつな指摘は、しかし、まだ終わりません。
「社長さん。消費税の計算上、これら出張旅費については課税仕入として仕入税額控除していますが、おたくの場合、給与とされますから非課税仕入になります。消費税も修正申告が必要ですね。」

(6)基本は「実費支弁」にあり。
 ここまでご紹介してきたA君の会社を他人事ではないと、お読み下さった方もおいででしょうか?
 この機会に旅費規定の整備をご検討いただくことも有意義なことかと存じます。
 しかしながら、それ以上に重要なことは、非課税となる現物給与等の取扱いの基本に「実費支弁」という考え方がある点です。
 その会社の業務の遂行上、その者にとって当然必要である経費(実費)を会社が負担(支弁)する事には些かも疑義を唱えられるものではありません。
 ですから、出張者から後日、出張精算書や領収書を提出させて実費のみを精算しており、しかもその金額がごく妥当なものであるならば、敢えて旅費規程等を整備する必要もないわけです。
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