13.複合型賃金とは?
現在、能力・成果主義を反映した賃金体系へ見直す企業が増えています。しかしながら、現行の賃金のどこからどう手をつけて良いのかわからないという経営者からの相談をよく受けます。大変難しい問題で、個別に現状を分析し将来動向まで踏まえないと結論はでませんが、考え方のポイントについて整理してみましょう。
賃金制度を設計するためには、まず賃金を4つの要素からとらえていく必要があります。一つは賃金の基本というべき生活給としての要素です。ワークシェアリングが言われてきていますが、多くのサラリーマン(ウーマン)は、1社から支払われる賃金で生計を立てているわけです。すなわち、将来の賃金収入予測をもとに扶養家族を含めて、住宅費(ローン)や教育や介護の費用など生活設計を行なわざるをえない実情があります。夫婦共働きや独身者を前提としてとらえるべきかどうかの社会的問題はありますが、企業側からみても安定的な賃金によって良質の人材を確保し、長期的に育成、開発することが今後とも重要であることには変わりません。
次は、能力給としての要素です。これは、個々の社員の能力の伸長度を評価して毎年の定期昇給などに反映していくものです。年功ではなく能力ということですから、当然個人差があることになります。能力給は年数をかけて、徐々に格差を拡大させていく性格のものです。
3番目は職務給としての要素です。これは今現在、担当する仕事に要求される付加価値の大きさ(ジョブサイズ)や困難度を評価して、都度賃金に反映させるものです。わかりやすくいえば、人をみて賃金を決めるのではなく、(人が座っている)椅子の方に値札をつけるものだといえるでしょう。
4番目は業績給としての要素です。従来の歩合給などと同じ範疇に入りますが、最近では、集団的業績給としてみることが一般的です。これは、部門やチームの業績をまず明確に数字で評価し、次にその構成員たる個々の社員の貢献度に応じて一定の割合を分配する仕組みであるといえます。従って、前年(前期)とは不連続で、アップダウンも大きく、相当メリハリのつくシステムといえるでしょう。会社側からすれば変動的な賃金で、でた分から支払う合理的な仕組みといえますが、社員側からすれば、やれば報われる賃金である一方で、不安定な賃金であるともいえます。
この4つの要素をもとに、では現実の基本給や手当、賞与をどのように構成すればよいのでしょうか? 例えば、月例の基本給は、能力給を中心に生活給としての安定的な要素も含めて長期的に運用し、役職手当は職務給の考え方を取りいれ、同じ課長であっても責任の大きさの違いから幅を設け、賞与は業績連動型とすることなどが考えられます。
一方、4つの要素の組み合わせ方を階層別に変えていく必要もでてきます。例えば、若年層では、初任給からの一定年数は、生活給を中心に毎年の定期昇給を重視して一生懸命頑張ればあがっていくように運用し、中堅層では能力給を中心に運用し、管理職層になれば、職務給と業績給を中心とした体系に切り替えるなどです。管理職層や高度な専門性が要求される職種については、個別の年俸制を取り入れることも考えられます。
このように新しい賃金体系では、複数の要素を状況に応じて柔軟に組み合わせる「複合型賃金」の考え方が求められてきています。シンプルな制度を望まれる経営者も多いのですが、実は複雑多様化して簡単にはいかないことに賃金の難しさがあります。なお、能力給・職務給・業績給に関してはそれぞれの評価をどのように客観的かつ公平で納得性あるように実施できるかどうかが重要になるのはいうまでもありません。
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