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5.経営分析のポイントと方法は?

<4>運転資金分析

(1) 運転資金について
 事業を始め、続けるためには設備投資をするための資金が必要ですが、それだけではありません。業種によって違いますが、月商の2〜3ヶ月程度の運転資金が必要となる場合が多いのです。
 運転資金とは、商品を仕入れてから販売し、その代金を現金で回収するまでに必要とされる資金のことです。すなわち、仕入れ商品の代金を支払ってから、その商品を在庫し、販売し、その販売代金を回収するまでに必要な資金のことです。販売代金を手形で回収した場合はその手形が決済されるまでの期間も加算することになります。
 製造業の場合は商品仕入れの代わりに製造に要する支払い、つまり材料費や外注費等の経費の支払いに置き換えて同じように計算できます。
 この運転資金の必要額のパターンは、各会社毎にほぼ決まっています。これを必要運転資金といいます。
 これを算式で表すと下記のようになります。

    必要運転資金 =受取債権回転期間
    +棚卸資産回転期間
    −支払債務回転期間

 受取債権とは、受取手形と売掛金との合計額です。支払債務とは、買掛金と支払手形との合計額です。それぞれの金額は、期首と期末の平均値を使用します。また回転期間とは、月商の何ヶ月に当たるかという期間です。1年間の売上高を1/12します。受取債権回転期間の場合は、期首受取債権と期末受取債権との平均値を月商で割った数字です。


(2) 活用方法

 たとえば、必要運転資金2ヶ月の会社は、常に月商の2か月分の運転資金を必要としていると同時に、売上高が1ヶ月100万円増加すると2か月分すなわち200万円の運転資金が余分に必要になってくることになります。
 したがって、必要運転資金の多い会社は、予算を作成するとき、運転資金の増加額を予測し、手当てをする必要があります。増加する運転資金より税引き後利益のほうが多い場合にはあまり心配要りませんが、利益率が低いことが予想される場合は借り入れ計画が必要になるでしょう。
 一方、スーパーマーケットのようにほとんどが現金販売である業態の会社は、仕入れ代金の支払いより前に販売し、回収しますので、マイナスの運転資金になります。すなわち、必要運転資金マイナス1ヶ月の会社は常に月商の1か月分の運転資金が手元にあるということを意味しています。このような会社では、売り上げが1ヶ月100万円増加すると100万円の手元資金が増加します。この場合資金繰りの心配が要らないので、実際には損失を計上していても注意していないと気がつかない可能性があります。
 このことは逆に言うと、売り上げが減少するときには必要とされる運転資金が増大するということを意味します。売り上げの減少により余っていたマイナスの運転資金が減少し、同時に通常は売り上げの減少により利益も減少しますし、場合によっては赤字になります。そうすると赤字による資金の流出によりダブルで資金繰りを圧迫します。


(3) 回転期間に注目

 受取債権回転期間等の回転期間は各会社によってほぼ決まっています。これは、業態が変わらなければ取引条件が同一であるために売り上げの増減があっても回転期間はあまり変わらないことによります。取引条件が変わると当然回転期間が変わりますので、必要運転資金が増減することになります。これは資金繰りに大きな影響を与えますので、個別の回転期間の増減には注意を払う必要があります。
 また、売掛債権回転期間が伸びた場合は、取引条件の悪化とともに不良、滞留債権の存在を疑ってみる必要があります。販売パターンの変化、すなわち取引条件の悪い商品が多く売れたということも考えられますが、その場合でも運転資金が多く必要になることは事実ですので、何らかの対策は必要です。
 棚卸資産回転期間が伸びた場合は、滞留在庫を疑ってみる必要があります。滞留在庫は不良資産化し、経営状態を悪化させる原因となります。常に在庫を点検し、少しでも滞留している在庫は処分方法を考える必要があります。なお、棚卸資産は経営戦略上の必要から増大させることがあります。このような場合の棚卸資産回転期間の増加は正常ですが、この場合の注意点として、戦略上増加させた棚卸資産を常に把握し、不良資産の増加が隠れてしまわないようにすべきこと、必要運転資金は当然増加しますので、資金手当てには十分注意すべきことがあります。
 買掛債務回転期間は長いことに越したことはないのですが、必要以上に長くすると取引条件が悪くなったり、こちらの経営状態の悪化を疑われて最悪の場合取引停止になることがありますので注意が必要です。

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