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5.経営分析のポイントと方法は?

<3>安全性の分析

収益性と並んで重要なのは、安全性(流動性)です。会社が活動した結果、どれだけの資産をもち、負債があるか、その差額である自己資本はどれだけあるかを表したものが貸借対照表ですが、貸借対照表は財政状態を表したものです。
安全性は、この財政状態を分析することでわかります。安全性の分析をするためには次のような比率が重要です。

(1) 自己資本比率

負債に比べて資産が多いと自己資本が多くなりますのでいい財政状態といえます。反対に資産より負債の方が多いといわゆる債務超過と言うことになり、このような会社ではもはや経営を継続することができません。遠からず資金繰りに行き詰まり倒産と言うことになってしまいます。
このように、自己資本が多いか少ないかは安全性を知るための最も重要な比率です。自己資本比率は次の算式で表します。

    自己資本/総資本
      (負債+自己資本)

自己資本とは、資本金等(資本準備金を含みます)に剰余金(会社の過去の利益のうち内部に留保した金額)を加算した金額です。総資本は、総資産と同額ですので、自己資本比率とは、会社の資産を調達するためにどれだけ自分自身の力で調達したかを表す比率ということができます。
自己資本比率の目標は、一概には言えませんが40%あれば安全といえるでしょう。20%を下回っていると危険です。ただし、負債のうちに社長などからの借入金が含まれ、その借入金が無利息かつ返済を要求されないものであれば、事実上自己資本に含めて考えていいでしょう。

(2) 流動比率

資産の中には受取手形や売掛金のように比較的短期間のうちに現金化されるものもあれば、工場用地のように会社が存続している限り現金化が不可能な資産もあります。また、負債のうちにも比較的短期間に支払期日が来る支払手形や買掛金のような負債と、長期借入金や、退職給付引当金のように通常では短期間に支払期日が来ない負債とがあります。
比較的短期間のうちに現金化される資産のほうが、比較的短期間に支払期日が来る負債より十分多ければ、資金繰りは楽であろうことが予想できます。逆に、比較的短期間のうちに現金化される資産のほうが、比較的短期間に支払期日が来る負債よりかなり少なければ、資金繰りは破綻してしまうかもしれません。
これを比率で表したものが流動比率で、次の算式で表します。

    流動資産/流動負債

流動資産とは、原則として1年以内に現金化が予定されている資産をいい、流動負債とは、原則として1年以内に支払期日が到来する負債をいいます。
この比率は大きければ大きいほど安全性は高いと言えます。200%以上が理想的と言われていますが、通常は150%以上あれば良いでしょう。
ただし注意すべきことは、いくら流動比率がよくても1回でも不渡手形を出してしまったら会社は破綻です。また、売掛金の中に滞留している債権が含まれていたり、棚卸資産の中に売れにくかったり、価値の下がっている在庫が含まれていると流動比率はあてにならなくなります。流動比率は一応の目安と考えて下さい。

(3) 当座比率

流動資産の中でも特に現金化しやすい資産を当座資産と呼び、次の算式で表した比率を当座比率と呼びます。

    当座資産/流動負債

当座資産には、現金預金、受取手形、売掛金、短期保有目的有価証券が含まれます。この比率が100%以上あれば資金繰りに問題はないといえますが、流動比率と同様一応の目安と考えて下さい。

(4) 勘定あって銭足らず

「勘定あって銭足らず」という言葉があります。利益はしっかり計上しているが、現金預金などの資金が足りなくなると言うことです。売上は商品を引き渡したときに計上されますが、代金回収に何ヶ月もかかる。一方、仕入の支払いは現金でだったり、比較的早く支払わなければならない取引条件になっている場合には、売れば売るほど資金が足りなくなります。また、不良債権や不良在庫を抱えている場合にも利益は計上しているのに資金が足りなくなることがあります。このような場合には、最悪倒産と言うことも考えられます。このような事態を防ぐためには安全性分析の一つである経常収支比率にいつも注意する必要があります。

(5) 経常収支比率

経常収支比率とは、資金の流れであるキャッシュフローのうち、借入れや設備投資など以外の通常の経営によるもののバランスを表した比率です。弊事務所との決算打ち合わせ時のキャッシュフロー計算書を御説明する時にお示ししている比率のことで、下記の算式で表します。

    経常収支比率=経常収入 /経常支出

経常収入とは、売上、営業外収入などの通常の経営によって実際に入金した金額をいいます。したがって、手形で回収してまだ決済していない金額や、売掛金となっている金額は経常収入には含まれません。また、当期の売上ではないが、前期以前に手形で回収して未決済になっていたり、売掛金になっていた金額を当期に回収すると経常収入に含まれます。通常は下記の算式で計算します。

    経常収入=売上+営業外収入
      +期首(受取手形+売掛金)
      −期末(受取手形+売掛金)

経常支出とは、売上原価、販売費、管理費、営業外支出などのうち、通常の経営で実際に支出した金額をいいます。したがって、手形で支払ってまだ決済していない金額や、買掛金となっている金額、減価償却費や引当金繰入額のように、実際には資金の流出がないのに費用になる金額は経常支出には含まれません。また、在庫に残っているために売上原価に含まれていない金額、前期以前に手形で支払って未決済になっていたり、買掛金になっていた金額を当期に支払うと経常支出に含まれます。通常は下記の算式で計算します。

    経常支出=売上原価
      +販売費一般管理費+営業外支出
      +期首(支払手形+買掛金+未払費用−棚卸資産)
      −期末(支払手形+買掛金+未払費用−棚卸資産)
      −減価償却費+法人税等支払額


(6) 105%以上が目標

この経常収支比率が100%超であれば経常収入が経常支出を上回っており一応問題ないように見えます。しかし、企業は経常支出以外に配当金の支払い、設備投資、借入金の返済なども必要です。したがって、一般的には105%以上あることが必要でしょう。ただし、取引条件が一時的に変わったり、急に売上が伸びたりしたときには100%を切ることがあります。その場合でも、原因が明確であり、翌期には改善が予想されるのなら特に不健全とは言えないでしょう。
注意すべきは、一時的でない取引条件の悪化、不良債権の発生、滞留在庫の発生などにより経常収支比率が100%以下になり、翌期も改善する見込みがないときです。これは、資金がどんどん減少していくことを意味しています。このようなときは、その原因を明確にし、改善すると同時に、6ヶ月からできれば1年間の資金繰り予定表を作成し、資金ショートが起きないように万全の対策をする必要があります。
実際、破綻した企業ではこの経常収支比率が数期間にわたってマイナスになっていたという調査があります。破綻するような企業の場合では在庫を故意に過大計上したり、架空の売上を計上するなどして粉飾をし、利益があるように見せかけることが多いのですが、たとえ粉飾していても経常収支比率はごまかせません。この調査はそのことを端的に示すものとして興味深いと同時に、経営者にとって損益計算書の利益だけでなく、キャッシュフロー計算書、特に経常収支比率に注意することの重要性を示すものでしょう。

(7) キャッシュフロー経営

このように、資金の流れに注意して経営することをキャッシュフロー経営と呼びます。キャッシュフロー計算書を作成すると自動的に経常収支比率が算定できますが、本格的なキャッシュフロー計算書を作成することはかなりむずかしいので、とりあえず経常収支比率だけでも作成することをおすすめします。経常収入から経常支出を差し引いた金額を経常収支差額といいますが、これが事業で得たキャッシュフローです。この範囲内で投資をするならば借入金は不要です。一時的に借入をすることがあっても数年間通算してこの範囲内に収まっているならば、とても堅実な経営ができるでしょう。

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