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5.経営分析のポイントと方法は?

<2>収益性の分析

 収益性分析とはどのくらい効率よく利益を上げているかの分析です。利益の絶対額ではありません。100億もの巨額な投資をしたとすると、1,000万円や2,000万円位の利益を計上してもとても収益性がいいとは言えないでしょう。ところが、1,000万円で小さな店を出していきなり年間1,000万円の利益がでたらとてもいい収益性だと言うことになります。
すなわち収益性とは、投資総額に対する利益の率だといえます。投資総額とは総資本と言い、具体的には借入金等の負債の総額と自己資本である資本の部の総額と合計のことです。また、利益とは通常その期間の儲けを示す経常利益のことを言います。つまり、


総資本利益率=経常利益/総資本



これを投資家の目で見ると、投資効率とは投資した資本、すなわち自己資本のことですからその場合の収益性とは


自己資本利益率=経常利益/自己資本



総資本利益率は、効率の良い売上と売上高利益率とによって達成されます。効率の良い売上とは、売上高回転率のことで、下記算式によって表されます。

売上高回転率=売上高/総資本


売上高利益率は売上に対する利益の比率ですから、下記算式になります。

売上高利益率=利益/売上高


売上高回転率と売上高利益率とが良くなれば総資本利益率は良くなります。つまり、より少ない資本で大きな売上を上げ、また利益率のいい商売、売上総利益率(粗利)が良く、販売費や管理費の少なくてすむ商売をすることが利益効率の良い事業だといえます。

効率のよい事業のための条件をもう一度箇条書きにすると下記のようになります。

    (イ) より少ない資本で事業を行う。
    そのために、無駄な資産を処分し、在庫を最小限にし、売掛債権の早期回収を図る。

    (ロ) できるだけ売上総利益(粗利)率のいい商品(製品)を販売する。
    売上を伸ばすことも悪いことではありませんが、それよりどれだけ粗利額を稼げたかが重要です。同じ粗利額を稼ぐなら、むしろ売上高は少ない方がよいのです。なぜなら、売上高が多いということは運転資金が多く必要になったり、最悪の場合貸倒れの危険が増すからです。

    (ハ) 販売費や管理費を少なくする。
    可能な限りすべての費目を見直し、無駄な経費を削減します。ここで注意することは、完全に不必要な業務はともかく、業務の質を変えないでその購入単価を下げることです。今デフレ経済です。多くの物の値段が下がっています。購入している物の中にもっと安く購入できる物はないかを検討するといいでしょう。ただし、将来への投資となるような支出は可能な限り残す方がいいでしょう。世の中は常に変化しています。扱い品目、仕入先、販売先、場合によって現在の事業そのものさえも見直すことが必要になるかもしれません。
    そのためには常に将来を見るための投資が必要です。これらの支出は一見不要であると見られがちですが、実はとても重要な支出であることが多いのです。

    (ニ) 営業外費用を少なくする。
    営業外費用のうち主要な支出は利息費用です。利息は現在低利率ですのでそれほど負担にならないかもしれませんが、近い将来金利水準が大幅に上がり、いきなり金利負担が多くならないとも限りません。借入金は、そうなった場合でも負担できるくらいの水準に押さえておくことが重要です。

(1) 変動費、固定費を下げる

利益の額は下記のようにも表示することができます。

利益額=売上高−変動費−固定費


変動費とは、材料費、外注費、仕入高のように、売上が増えるとほぼ同じ比率で増える費用のことです。その比率のことを変動費率といい、売上高に変動費率を掛けると変動費になります。すなわち、変動費率を下げると変動費は少なくなり利益額は増加します。変動費率を下げるためには売上単価を上げる、材料費、外注費、仕入高の単価を下げる、材料費の使う量を減らす、外注にできるだけ出さない等の方法があります。ただし、たとえば飲食店の場合、メニューの単価を上げたり、食材の使う量を減らすと変動費率は下がりますがお客様に嫌われる可能性もありますので、同じ質で単価の安い食材に変える等の工夫が必要になるでしょう。

 変動費分析をする場合に注意すべきことは、商品や製品の種類別、部門別にこの分析をすることです。一般に種類が異なると変動費率が違ってきます。同じ種類別に分析することで役に立つ分析結果を得ることができます。
 固定費とは、売上高が増えてもほとんど変わらない費用です。販売費や管理費のほとんどの費用はこの固定費です。ただし、売上が大きく増えると固定費と思っていた費用も増えることがあります。営業マンを増員したり、売場を増やす、倉庫を増設するなどによって増えるのがその例です。

 売上が増えるときはこの固定費をできるだけ増やさない努力が重要です。油断すると、売上が増加し粗利額が増えているのにそれ以上に固定費が増加して利益が減少することさえあります。

 また、逆に売上が減少するときには当然のことながら何もしなければ固定費は減少しません。したがって、そのままですと赤字になってしまいますので、固定費減少の努力をする必要があるのです。いわゆるリストラといわれるものです。一般に固定費の減少は相当の痛みを伴うものですが、早く着手することでその痛みを少なくすることができます。1年後をできる限り正確に予測し、早めの対策が必要な理由はそのあたりにあります。

(2) 部門別損益を分析する

会社は、通常複数の商品(製品)を扱っています。これらはその利益率も販売方法も異なっているものが多いでしょう。それらを合計して収益性分析をしても実は余り意味のない数字になってしまいます。そこで、意味のある分析結果を得るためには、一定の方法でグループ分けをして、グループ単位で分析するといい結果が得られます。また、他店舗展開をしている会社の場合、各店舗ごとに責任者がおり、一定の目標を持っていることが多いでしょう。このような場合でも各店舗を一つの部門として収益性分析をすると有用な結果が得られます。

(3) 商品(製品)群別に分析

商品群別に収益性分析をする場合、売上総利益率および販売方法の似たものでグループ分けをすると良いでしょう。
たとえば、卸売業と小売業、サービス業の3業種を兼営していたとすれば、少なくとも3部門に分けて収益性を分析します。これらの業種ではそれぞれ利益率が大きく違い、販売方法も違うことが通常だからです。また、製造業の場合、製造ラインの異なるごとに分析します。原価計算は通常製造ラインごとに行い、その原価に対応させて収益性を分析するからです。もちろん同じ卸売業に属する商品でも、総利益率等が大きく異なっている商品グループがある場合はそのグループごとに分析をします。
部門別分析という場合、それぞれの部門が獲得した経常利益を算出することを言います。そのためには、会社の組織上各部門ごとに販売費や管理費が把握されている必要があります。その場合、本社部門やその他の共通費を各部門にどのように配賦するかが問題となります。一般的には、人件費に関する経費はその部門の人数又は給与総額、販売関係費は売上高、その他の経費は、その内容により、売上高、人数、専有面積などで配賦します。
なお、比較的小規模の会社では、そこまで分析しなくても、売上総利益を商品群別にしっかり把握するだけで十分な場合がありますので、実態に応じた分析をしてください。

(4) 営業所別に分析

営業所が多数あり、それぞれ責任者がいる場合などでは営業所ごとの損益を算出する必要があります。各営業所の場所が独立しているような場合はそれぞれに把握される損益は明確ですが、次のようなケースは注意が必要です。

    (イ) 本社費、全社共通費の配賦
    商品群別分析のところでご説明しましたように、一定の配賦基準で配布します。

    (ロ) 支社長が本社役員を兼務している場合
    通常、役員報酬は区分されていますので、役員報酬部分を除いた金額をその部門の人件費とします。

    (ハ) 社屋が自社物件の営業所と賃借物件の営業所がある場合
    自社物件の営業所の方が通常は経費が少なく計上されますので、自社物件に通常の相場並みのみなし賃借料を計算します。

    (ニ) 在庫品や売掛金の保有高が特に多い営業所がある場合
    そのような営業所は金利負担を本社に負担させていることになりますので、その営業所の在庫品、売掛債権等の投資額に一定の社内金利を計算して部門損益を計算します。

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