経営
税務
その他
2.経営計画の作り方は?

<3>短期経営計画の作成

 経営計画作成の仕上げは短期経営計画です。短期経営計画は翌期の経営計画の作成つまり年度予算の作成です。
 中期や長期の経営計画を作っても様々な状況変化で計画通りにいくことの方が稀でしょう。したがって、経営計画は常に見直していくわけですが、その最終版ともいえるのが年度予算です。年度予算の作成方法は基本的には今まで述べてきた経営計画の作成方法と同様ですが大きな違いは、予測可能な範囲内での計画であることです。5年10年の予測は事業する上での環境に大きな変化が起こる可能性が十分あり、その予測はかなり困難でしょうが、1年足らずの未来の予測はけして不可能ではないでしょう。それでは今回も具体的な作成方法をご説明しましょう。

(1) 翌期の事業計画を明確にする
 年度予算は、中長期経営計画を実現することになるわけですが、最終的に翌期にどんな事業をするかを明確にしなければなりません。これは当然のことのようですが中小企業の場合は意外にできていないようです。今までやってきた事業を何も考えずにそのままやるというのでは事業計画ではありません。現在の会社の問題点を明確にして、さらに中長期経営計画を実現するためのステップを織り込む必要があるのです。つまり、中長期経営計画を実現するために何をしたらよいかが明確になっていればそれがそのまま事業計画になるのです。この事業計画には、新規事業または新製品開発計画、設備投資計画、人材採用及び育成計画、研究開発計画等が含まれます。

(2) 事業部別の売上高を予想する
 これらの事業計画を基にして、各事業部別の売上を予想します。この場合、それぞれの担当者に数字を作らせることが多いでしょうが、注意しなければならないことは、担当者からの数字を鵜呑みにしてはならないことです。各担当者は目標とすべき数字を社長にあげたがりますが、その数字はどうしても過大になりがちです。
 また経営者自身も希望的な考えがちです。楽観的なのは悪いことではありませんが、年度予算はけして目標ではなく、予測なのです。予算通りに売上が伸びなかったときはもちろん、予測を越えて売上が伸びたときでさえ会社の経営は様々な問題を生じます。次回述べますが、売上が予算より過小または過大になったときは資金繰りに大きな影響を与えることが少なくないからです。
 正確に売上を予測すると言うことは、このようにきわめて重要なことです。また、正確に予測するにはその根拠を明確にする必要があります。根拠が明確であれば、予想が違ったときにその理由がすぐにはっきりし、対策が立てやすくなるからです。業種によっては、売上を予測することがきわめて困難な場合もあるでしょう。しかし、困難であれということはそのための努力が他社と差をつける大きな要素になるに違いありません。したがって、経営者にとって最も重要な資質の一つは予測能力だとも言えるでしょう。

(3) 費用の予想をする
 売上が決まったら費用の予測をします。この予測は売上ほど難しくはないでしょう。事業計画さえしっかり決まっていればあまり狂うことはないはずです。逆を言えば費用の予算が正確かどうかが年度予算の質を左右すると言っていいでしょう。
 まず、費用を変動費と固定費とに分けます。変動費とは売上が増加するとその増加と同じ比率で増加する費用のことをいい、商品仕入れ、材料費、外注費、発送運賃などがその代表的な例です。固定費とは売上が増加してもすぐには増加しない費用を言います。実際にはその中間的な費用もありますが、売上の増加にほぼ比例して増加する費用以外は固定費にとりあえず区分します。
 売上に対する変動費の率を変動費率といいますが、この変動費率を予測し、事業部別の売上に変動費率を乗じた金額を変動費とします。変動費率は販売方法に変化がなければ前期の変動費率を用いればよいでしょう。事業部の中でも変動費率の大きく違う製品があればそれぞれ区分して変動費を求めます。
 次に固定費ですが、これは前期の実績を参考にして増減額を予想します。昇給額、増員、事業所開設、設備投資等がその主な内容になります。注意すべきことは、売上が伸びるときには、固定費としている費用のうちでも少しづつ増加する費用があるということです。旅費交通費、通信費、交際費、消耗品費などです。

(4) 利益を予想する
 予想費用が決まったら予想利益が算出できますが、これが必要利益に達しなければもう一度年度予算の練り直しです。必要利益とは会社が将来多少の景気変動があっても安全に存続するために必要な利益のことをいい、業種によって違いますが一般的には売上高の3−5%位を考えたらよいでしょう。もちろん中長期経営計画で一定の利益目標があればその利益と言うことになります。
 逆に多すぎて法人税がかかりすぎると予想されれば何らかの節税策を考えることになります。何しろ1年前ですから節税のために計画できることはたくさんあります。

(5) 運転資金の増加額を予想する
 1年後の売上が決まると必要運転資金額がわかります。必要運転資金額とは、商品や材料を仕入れてからその商品などを販売した代金を回収するまでに必要とされる資金のことです。この必要運転資金は通常、売上の何ヶ月分というように表すことができそのパターンは各会社ごとにほぼ一定しています。たとえば、売上代金の回収が売り上げてから3ヶ月目、商品在庫は平均して売上の1ヶ月ある、買掛金は売上の2ヶ月分あるとすれば、この会社の必要運転資金は3+1=2で売上の2ヶ月分だということができます。すなわち、売上が1ヶ月平均100万円増えると運転資金は200百万円多く必要になります。1ヶ月100万円売上の増加を見込んだならば、200万円の資金手当が必要になると言うことです。さらに、もし100万円の売上増加の予算を立てていたのに200万円売上が増加したら運転資金は200万円余分に必要になってしまいます。予算を正確に立てないとこのように資金繰り計画にも影響がでてくるのです。

(6) 設備投資計画を立てる
 設備投資は、中期経営計画で立てた戦略を実現するため、または陳腐化した設備の更新のために計画されます。いずれにしても予算を作るときにはすべての設備投資計画が予定されていることが理想です。

(7) 資金繰り予算を作成する
 予算作成の最後で、とても重要なのが資金繰り予算です。資金繰り予算はまず年間で作成します。上記(1)と(2)が今期に必要とされる資金ですがこのほかに借入金の返済や設備投資資金の未払金の支払いがあります。これらの合計が今期の必要資金額です。  次に資金の調達方法を計画します。資金の調達の一番目は利益です。もちろん税引後の数字です。  次に減価償却費です。減価償却費は費用ですが、資金の流出がないからです。この資金の調達額より今期の必要資金額が大きければ残額は借り入れることになります。銀行の借入枠に照らしてその借り入れが可能かどうかを検討します。もし不可能ならばもういちど原点に返って予算を立て直す必要があるでしょう。資金不足は最悪の場合倒産にもなりかねませんから。  年間の資金繰り予算ができたら、これを月次に直します。月ごとに過不足を算定し、借り入れ計画を具体的に計算します。これを銀行に見せてその通りに実現していったら、銀行の信用が倍増すること請け合いです。

(8) 実績と比較し修正する
 予算は作りっぱなしではその目的の半分も果たせません。実際の数字は当然予算とは違ったものになるでしょう。そこで、まず期首から2〜3ヶ月の月次の実績が出た段階で、予算と実績とを比較することになります。最初に何が違っているかを正確に把握します。次に違った原因を考えます。ここで、予算を作るときにどのくらい調査し、根拠を明らかにして作成したかによって原因が明確になるかどうかの差が出ます。丁寧に予算を作っていると、予算と違った結果が出たときにすぐに対応策がとれます。実績が予算を下回ったときはもちろん、予算を上回ったときもできるだけ正確に原因分析をする必要があります。なぜならば、予算をオーバーすると、(1)で述べたように運転資金体質によっては資金繰りに影響が出る場合があるからです、また、予算を作るときに何か見落としている要素があったからにほかならないからです。
 つぎに、現在までの実績をふまえて予算を修正します。これをできれば毎月行います。そうすることによって、これが決算予想になってくるのです。
 常に早め早めの予想を立てて、対策を立てていくことが堅実な経営の一歩です。是非実践されることをお勧めします。
執筆紹介 採用情報